Mと中村

 生徒が何千人もいて、全員そこで寝泊まりをして過ごさないと行いけないという予備校に通う。みんな階段を登りたくないから1階2階が人気で、雑魚寝をするひとが鬼のようにいたので、3階で寝ることにした。体育館のような広さで、一応柔道場みたいな感じの床になっているから固くはないんだけど、そこにタオルケットを広げて寝る。ひとが多いな、と思う。

 自炊もできない環境なので、食事は外に食べに行くしかなく、食費もばかにならない。夕方6時ごろ、ちょっと早いけど夕食を取ろうと思って街に出ようとすると、Mに呼び止められた。Mは高校のとき半年だけ付き合いがあったやつで、半年したら神戸かどこかに引っ越して行ってしまった。Mはあとで時間がないかと言う。いまから食事をしてくるつもりなので、40分後くらいならと答えると、わかったと言い、それからすぐに、やっぱり15分後に時間をくれと言う。でも食事に行くから無理だと言っても聞かない。半ば無視する形で街に出た。

 細い道にたくさんのオープンカフェのような店が建ち並び、すでにどこもお祭り騒ぎのよう。何軒か見回って適当に入った店に、Mがいた。Mはビールを飲んで、メニューにないなにかふわっとしたものを食べていた。店のまかないらしい。

 Mは店員の女性と仲が良くて、安値でまかないを食べさせてもらっているのだそう。僕もMつながりということで、今後この店で安くでまかないを食べさせてもらえることになった。Mと縁があってよかったと思った。店員の女性は漢字3文字くらいの名字のネームプレートをつけていたので、その名前を読んだら、実は私この名前違うんですと恥ずかしそうに言う。ネームプレートを忘れて、他のひとのを借りているとのこと。本当は中村と言った。