スローガン

 叔父(父の弟)がもう1〜2日で亡くなるという余命宣告を受けたらしく、最期はこっちで迎えたいということで、うちにやってきた。うちといっても住んでいるのは祖父の旧家だった。たくさんある部屋のうち、奥の部屋に叔父が寝ている。叔父は船橋の人間で、その叔父がわざわざ船橋からこっちにくるだけでも寿命をかなり削りそうだと思ったのだけれど、命をかけてまでこっちに来たかったのかと思うと何も言えなかった。ちなみに叔父はこの土地になんの因果もない。

 市から、映画絡みの仕事を手伝ってほしいと頼まれる。その「手伝ってほしい」の中に、この仕事がノーギャラであることが暗に意味されていた。僕たちは曲がりなりにも会社をやっているので、基本的にタダ働きはしない。市が絡むということは、やり方次第でなんらかのリターンを得る(たとえば後日別の仕事を受託するとか)ことができるかもしれないということで、今回は向こうの言う「手伝い」をしてあげることにする。

 昼間、とある高校に行って撮影のための雑務をちょこちょこと手伝う。その仕事は夜中になっても終わる気配がなく、撮影チームが撤収した後も、「手伝い」チームは徹夜で作業をしてほしいみたいなことをやんわりと言ってくる。夜中にもかかわらず、ガンガン電話がかかってくる。午前1時半だというのに電話がかかってきて、堪忍袋の尾が切れた。この仕事はもともとノーギャラな上にボランティアでやっていることであって、そこまで図々しくいろいろ押し付けられる筋合いはない。おまけに我が家にはまもなく息を引き取る叔父がいて、叔父の死はできることなら看取りたい。彼の命よりもノーギャラのボランティアを優先する筋合いもない。などということをできるだけ感情的にならずにまくし立てる。電話をかけていた彼もたじたじになっているのはわかる。わかるが、それでも図々しいにもほどがあるだろうと言うと、向こうはすっかり黙ってしまった。うちの会社の社長とも相談した上で、この仕事はキリのいいところで引き上げることにした。キリのいいところといっても結局は朝の7時まで作業を続けることになり、すっかり朝になってしまったなと思いながら泥のように眠ってしまった。

 ここから夢(夢中夢)を見る。

 僕は1学年が10クラスあるとある高校にいる。この学校は10組がエリートクラスで、優秀な生徒が集められている。授業に力を入れていて、このクラスでしか行われない特別な授業などもある。そのエリートクラスの様子が最近おかしいらしい。9組の僕は、何人かで10組の様子を見に行く。どうやら10組では授業中に一種の洗脳のようなことが行われているらしく、自分がエリートになるのを妨げる要素があれば、それは徹底的に排除してもよいという考えを植えつけられているようだった。彼らは僕らを半ば殺す気で攻撃するつもりだった。なんとかしなきゃということで、僕は前職の上司や同僚を呼んで、再度10組に向かう。できるだけ穏便に、できるだけ誰も怪我しないように対処しようと思うけれども、向こうはそんな気がさらさらない。10組のメンバーはどんどんエスカレートしてきて、とうとう殺気立ってきた。つるはしを持っている生徒もいる。そういった「武器」をこっちに振り回してくる彼らから、這々の体で逃げる我々。どうにかして9組に戻ってくるも、すでに1〜9組のなかにも、10組の理念に共感する生徒がちらほら出始めていた。

 10組の理念に共感する生徒は、比較的おとなしくて真面目な生徒が多い。そういった生徒を皮切りに、徐々にエリートクラス側に共感する生徒が増えてきて、彼らは暴徒化した。不真面目だったりそこそこ適当に過ごしている生徒は彼らの色に染まりにくかった。次第に校内はエリート組対我々不真面目組という様相を呈してくる。最終的には殺し合いに近い形にまで発展するが、教室の中で攻防を繰り返す中で、「こういうの、疲れない?」と誰かが言い出し、エリート組もそれに同意し、みんなでアッハッハみたいに笑ってチープな終わりを迎える。

 という夢を見た。という話を、僕は1組のみんなに披露した。僕はどうやらその学校の教師で、1〜10組の中の面白い生徒を探すことになっていた。夢の話は1組の生徒に思いの外ウケた。1組はクラス全体がまとまっていて、全員が明るくてユーモアがある学級だということがわかった。「1組は全員が面白い」と結論付けて、2組に行く。

 2組には、待ってましたと言わんばかりに一芸に秀でている生徒が3人くらいいて、彼らはみな非常におもしろかった。僕はその生徒たちを推すことにした。3組に移る。

 3組には教室がなかった。3組の生徒と先生は、階段の途中の広い踊り場を教室にしていた。ただでさえ吹き抜けで寒いのに、その上生徒はみな冬なのに半袖半ズボンだった。壁には「寒さが強い心を作る」というスローガンが貼ってあった。「寒さが強い心を作る」て。完全にこじつけやんか。もうそのシチュエーション自体がすでに十分おもしろかったのだけど、当の本人たちは至って本気だった。そのギャップが余計におもしろかった。